ライター兵庫慎司氏による
Ken Hirai Films Vol.18 『Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar Special !! 2025-2026』
作品レビュー掲載

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2021年5月21日リリースの10thアルバム『あなたになりたかった』を最後に、5年以上、新しい音源は出ていない。国内での客前のライブとしては6年ぶりだった、2025年5月13日横浜アリーナの『Kenʼs Bar』では、今後の活動について、何かアナウンスがあるのでは、と思ったが、なかった。その後、デビュー30周年の活動の続きとして、東名阪5公演のアリーナ・ツアーを行うことが発表になり、2025年12月〜2月に実施。その模様がライブ映像作品「Ken Hirai Films Vol.18『Ken Hirai 30th Anniversary Kenʼs Bar Special!! 2025-2026』として、10月7日にリリースが決まった。それ以降の活動に関しては、特にアナウンスされていない。
これ、もう、状態としては「活動休止」を超えて「実質引退」なのでは? と、言いたくなるが、ただし。この映像作品を観た方なら、もしくはこの映像作品になったライブを観た方なら、そうではないことがわかると思う。もうひとつ言うと、この映像作品に封入されている、購入者に向けて本人が書いた手紙を読めば、さらにクリアに、そうではないことが、わかると思う。

最新アルバム『あなたになりたかった』の時期は、コロナ禍の真っ只中で、プロモーション等の活動ができないのはもちろん、ツアーも飛んでしまったので除外するが、その前のアルバム『STILL LIFE』(2016年)と、その次のシングル「ノンフィクション」(2017年)までの平井堅は、「何度目かのブレイク」と呼ぶにふさわしい状況だった。
「ノンフィクション」は、たとえヒットしなかったとしても、平井堅にとっても、彼の歌を愛する聴き手にとっても、すさまじく重要な名曲だが、結果は見事にヒット。各配信チャートで1位を獲得し、6年ぶりに平井堅を、NHK紅白歌合戦のステージに立たせた。

デビューから25年、年齢も50に手が届く。ここまでは走りきった。さあ、次は? という時に、20代・30代の彼がそうであったように、「もう一回これを」「何度でもこれを」という方向で突き進んで行く、というのは、違う。と、本人が思ったとしても、不思議はない。立ち止まる時間が必要になったとしても、同じく、不思議はない。
ただし。「ここで止まりたい」という判断を平井堅がした、その理由はいくつもあるだろうが、大事なのは、その中に「次にやりたいことがない」は、ない。という事実だ。
この映像作品になっているライブが、「次にやりたいこと」の、大きなひとつだからだ。「次にやりたいこと」の始まり、と言った方がいいかもしれない。次にやりたいことがない、でも30周年だから何かやらなきゃ、という動機だったら、これまでの平井堅のライブのやりかたと、こんなに大きく違うことを、やらないだろう。
アコースティック・ギターやピアノやドラムはもちろん、琵琶やハープやチェロといった楽器まで含めて、「歌とひとつの楽器」というスタイルで、アリーナ満員のオーディエンスと、1曲1曲対峙していく。
映像制作集団「5月」のふたり(平瀬謙太朗と関友太郎)と組んで、映像やセットなどなど、どれもが、これまでの平井堅ではありえなかった演出のステージを作り上げ、提示する……いや、違う。「これまでの平井堅ではありえなかった」ではない。少なくとも自分は、他のアーティストも含め、こんなステージ、観たことがない。「5月」自体、音楽のコンサートに関わったのは、初めてだという。WOWOWでドラマが放送され、のちに映画も公開になった彼らの作品『災』を観た平井堅本人が、オファーを熱望したそうだ。
『あなたになりたかった』以降、平井堅が沈黙していた数年の間、もしかしてメンタルを病んでいるのでは、と、心配になったりもした。が、このライブを(生も映像作品も)観て、そして平井堅の手紙を読んで、逆だったんだな、ということがわかった。病んだから止まったのではなくて、
病まないために止まったのだ、平井堅は。

ただし。
わかりました。次にやりたいことはあるし、見えているし、もう始めているんですね。じゃあ、それをサクサク進めて行けばいいじゃないですか。
と言うのは、無理筋だと思う。どう見ても、ハイペースにポンポンと、表現としてアウトプットしていけるようなものではないので。新しい曲を作ってレコーディングして発表する、ということにおいても、同じなのだと思う。やりたいことは見えているけど、ホイホイできるレベルのもんじゃない、でも迂闊なものは出したくない、だからフットワーク軽くは動けない、ということなのではないか。
じゃあどうすればいいのか、我々は。待てばいいんじゃないでしょうか。「待つしかない」とも言えるけど、待ったら何かが出て来るはずだ、と、僕は信じているし。
                                                                                         
TEXT 兵庫慎司